大地のように・・・水のように・・・風のように

 ブッダが入室すると一同が起立した。ブッダは比丘たちを座らせてから、みずからも席についた。サーリプッタ長老に合図して、すぐ隣の低い席に座らせてから、ブッダはサーリプッタに語りはじめた。
「あなたに殴り倒されて、詫びも言ってもらえなかった、と訴えた比丘がいるのです。何か申し述べることがありますか」

 サーリプッタは立ちあがって合掌した。まずブッダに一礼し、それから比丘たちに頭を下げた。

 「師よ、修業をしない僧、体のなかの体について瞑想しない僧、体の行動に<気づき>を持たない僧は、仲間の僧を打ちのめして、詫びも入れずに立ち去ることができます。

 私は14年前、あなたが比丘ラーフラに語られた教えを大切に実践しています。ラーフラは当時18歳でした。地と水と火と風の本質を瞑想して、慈しみ(慈)、あわれみ(悲)、喜び(喜)、平静(捨)の四つの得を養いはぐくむことを教えられました。あなたの教えはラーフラに向けられていたが、私もまたあの教えから学び、この14年間、刻苦勉励してあの教えを守ってまいりました。この教えにどれだけ感謝したか知れません。

 師よ、私はとりわけ大地のようになれるよう修行してまいりました。大地は広くひらかれており、好ききらいなくすべてを受け入れて変容する力を持ちます。花や香水や新鮮なミルクを注ごうが、汚れて悪臭を放つ大小便や血や粘液や唾をかけようが、大地はすべてを好ききらいなく平等に受け入れるからです。
 私はみずからの心と体が大地のようになれるよう瞑想してまいりました。体のなかの体を瞑想しない僧、体の行動に<気づき>を持たない僧、このような僧は兄弟を打ち据えて、詫びも言わずに立ち去ることができますが、それは私の道ではありません。

 師よ、私は水のようになろうと修行してまいりました。香りのよいものを流されようが、汚れたものを注がれようが、水はどちらも好ききらいなく受け入れます。水ははてしなく流れ、変容し浄化する力を持っております。尊敬する師よ、私はこの体と心を水のようにするために修行してまいりました。体のなかの体を瞑想しない僧、体の行動に<気づき>を持たない僧、そのような僧は兄弟を打ち倒して詫びも言わずに立ち去ることができますが、それは私の道ではありません。

 私は風のようになろうと修行してまいりました。風はよい匂いもいやな匂いも好ききらいなく運びます。私はわが体と心を風のようにしようと修行を積んでまいりました。体のなかの体を瞑想しない僧、体の行動に<気づき>を持たない僧は、兄弟を打ち倒して、詫びも入れずに立ち去ることができましょうが、それは私の道ではありません。

 師よ、幼い不可触民の子がぼろをまとって、鉢を抱きかかえて物乞いをするように、私は思いあがりを戒め、傲慢にならぬよう修行してまいりました。私はその子のような心を持とうと努力してきたのです。師よ、体のなかの体を瞑想しない僧、体の行動に<気づき>を持たない僧は兄弟の僧を打ち据えて詫びも入れずに立ち去ることができましょうが、それは私の道ではないのです」

 サーリプッタはなおも話しつづけようとしたが、サーリプッタを告発した僧のほうがこれ以上耐えられなくなって立ちあがり、大衣の端を肩の上にたらしてブッダに一礼した。そして合掌して告白した。
 「わが師ブッダ、私は戒律を犯しました。私はサーリプッタ長老に対して偽りの告発をしたのです。ブッダと僧団の前で戒の違反を告白します。これからは戒律を遵守することをお誓い申し上げます」
 ブッダは言った。
 「僧団の前で自らの戒律違反を告白したのはよいことです。あなたの告白を受け入れよう」
 サーリプッタ長老は合掌して言った。
 「私はあなたに対して何の恨みも持っておりません。過去において何かお怒りを買うことなどがございましたら、どうぞお許しください」
 その比丘は合掌してサーリプッタに頭を下げた。幸福が講堂を満たした。

(p.301、上l.15-p.302、下l.16)